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「送還停止効」に例外を設ける脱法行為——— アフリカ出身の男性に対する入国警備官の暴行動画について~その2

弁護士 大橋 毅

 

動画の公開

 入管の入国警備官が、アフリカ系男性(A氏とします。)に暴行をする映像を、公開しました。7日午後2時時点で190万回視聴された媒体もあるようです。

https://twitter.com/ToshihikoOgata/status/1665746115046653954

送還されるプロセスの映像

  どんな状況なのか説明をしておくと、茨城県にある東日本入国管理センターに収容されていた難民認定申請者A氏が、2019年12月23日、強制送還のために成田空港に連れてこられ、空港内の入管施設で午後いっぱい、搭乗時刻まで待たされていたときのできごとです。
 動画の最後に、A氏は飛行機に乗せられましたが、「帰らない」「帰れば死ぬ」と訴え続け、機長の判断で飛行機から降ろされて、収容所に戻されました。
 そして、この暴行などについて、国家賠償請求の裁判を起こしました。一審では、訴えの一部が認められましたが、暴行を違法とは判断してくれず、控訴中です。
 
送還停止効があるのに送還されそうになった理由
 今回の入管法改定案では、難民認定申請者を含む「送還忌避者」を抑圧することが主目的となっています。
 難民認定申請をしていればその間は送還が停止される「送還停止効」が、現行法にはありますが、入管法改定によって、2回不認定処分を受けてしまうと、効力を打ち切られ、送還執行ができるようになります。
 では、まだ法律が変わっていないのにA氏はどうして送還されそうになったのでしょうか。
 入管は、難民の認定をしない処分に対する異議申立の棄却決定の通知日と、強制送還の執行の日を、両部門が連絡を取り合って調整して、異議棄却決定を通知し、その場から送還執行を行うというやり方をしたのです。

難民申請者に対する違憲な人権侵害

 これは、送還停止効の脱法行為です。
 東京高等裁判所令和3年9月22日判決は、入管が、難民の認定をしない処分に対する異議申立の棄却決定の通知日を調整し、異議棄却決定を通知し、翌日に送還執行を行ったという一連の行為を、憲法上の裁判を受ける機会を実質的に奪うもので違法と判断しました。
 A氏に対する東京地裁令和4年12月22日判決でも、入管が、難民の認定をしない処分に対する審査請求の棄却決定の告知日を調整し、審査請求棄却決定を通知して即座に送還執行を行った際の、難民審査参与員事務局が通知を送らせた行為が、憲法上の裁判を受ける機会を実質的に奪うもので違法とされています。

入管庁全体による計画的違憲行為

 入管庁(当時は入管局)は、平成27年策定の第五次出入国管理基本計画で、「送還停止効に一定の例外を設けることについて、法制度、・運用両面から更に検討を進めていく」と述べています。令和元年策定の現行の出入国在留管理基本計画でも、同じ記述が引き継がれています。
 「送還停止効に一定の例外を設ける運用」とは、何を意味するかというと、まさに、上記の、難民異議棄却通知と同時に送還執行をしてしまう運用と理解できます。

 このような手法は、2010年代初めころにもいくらか見られた記憶がありますが、2015年以降に「濫用的申請者対策」が声高に言われるようになるに伴い、2017年3月1日には、入管局長名義の「指示」で、従来在留資格を有していたが複数回申請に及んだことで在留資格を失った人たちに対して、このような手法を行う体制を整備する通達が出されています。(PDF:「難民認定制度の濫用・誤用的な再申請者の帰国促進に係る措置の試行について(指示)」 https://drive.google.com/file/d/1wnoBBmZZSsnbGkAlLJvWqRIEu2G6dx2f/view?usp=drive_link)

 その通達に基づいて具体的に実施されるたびに、実施報告がされています。(PDF:「難民認定制度のi監原・誤照的な再申請者の帰国促進に係る措霞の結果について(報告)」https://drive.google.com/file/d/1fh5qp7BomTf_3sxN7nlAACxjTWCvPg7u/view?usp=drive_link)報告先は、難民認定室長で、難民認定室が直接の統括をしていたのだろうと推測されます。

 つまり、入管庁が、公にしている行政計画に基づき、入管局長や入管庁長官の指示の下、難民認定室が主導して組織的に、違憲行為、難民認定申請者の人権侵害行為を行ってきたということです。

再発防止策?

 東京高裁判決確定後、上記一連の行為と同様の行為が行われないための通達が発せられましたが、憲法上の権利の侵害という重大性に鑑み、防止措置は真っ先に法制化するべきであろうと思います。しかし、今回の法案にそのような規定はありません。

「送還停止効に例外を設ける法制度」

  出入国在留管理基本計画にある、送還停止効という法制度に「一定の例外を設けることについての運用面の検討」ということ自体が、脱法行為を意図していると思います。
 さらに、「送還停止効に一定の例外を設けることについて、法制度から検討を進めた」結果が、今回の法案と理解できます。
 今回の法案は、2019年ころの収容長期化などへの対応ではなく、もっと以前から、入管庁は、送還停止効を無効化するための方策を検討してきました。
 しかし、行政計画は、法律を誠実に執行するための計画であって、法改正の検討を行政計画に盛り込むことは権限を越えるものではないかという疑問がぬぐえません。
 送還停止効は、小泉政権下の2004年、自公の賛成で成立した法改正で導入されたものです。政権与党すら、入管庁による情報操作に騙されていると思います。

「送還忌避者」に対する暴力的送還 ——— アフリカ出身の男性に対する入国警備官の暴行動画に説明~その1

 弁護士 大橋 毅
 

動画の公開

 入管の入国警備官が、アフリカ系男性(A氏とします。)に暴行をする映像を、公開しました。7日午後2時時点で190万回視聴された媒体もあるようです。
https://twitter.com/ToshihikoOgata/status/1665746115046653954

送還されるプロセスの映像

 入国警備官は、何のために暴行をしているのでしょうか。
  どんな状況なのか説明をしておくと、茨城県にある東日本入国管理センターに収容されていた難民認定申請者A氏が、2019年12月23日、強制送還のために成田空港に連れてこられ、空港内の入管施設で午後いっぱい、搭乗時刻まで待たされていたときのできごとです。
 動画の最後に、A氏は飛行機に乗せられましたが、「帰らない」「帰れば死ぬ」と訴え続け、機長の判断で飛行機から降ろされて、収容所に戻されました。
 そして、この暴行などについて、国家賠償請求の裁判を起こしました。一審では、訴えの一部が認められましたが、暴行を違法とは判断してくれず、控訴中です。
 

なぜ暴力が振るわれたか

 A氏は、一切暴れていません。
 例えば、椅子に座らされたAさんが、右にいる入国警備官の顔を見たところ、後ろ手に手錠をされた両腕を無理に持ち上げる関節技が行われ、A氏は悶絶します。
 この場面について一審判決は、「原告は、「帰らない」などと送還を拒絶する発言を繰り返しつつ、右に首を曲げ後ろを気にするそぶりをみせた。このこと自体は、原告及び原告に対応する入国警備官の受傷の具体的な危険性のある行為とはいえない」として、A氏が暴れるなど危険な行為をしていなかったことを認めています。
  後ろ手を無理に持ち上げる関節技が行われた理由について、一審判決は、
 ①「一回目の持ち上げ行為が終了した後も、送還を拒絶する発言をしたことから強固な抵抗意思を保持していたこと」
 ②「原告は、待機室において長椅子に座った後、断続的に全身に力を入れるなどの抵抗を続けたこと」
 ③「実際に、後記ウ以下で説示するとおり原告はその後も強い抵抗を繰り返したこと」
を理由に挙げています。
 入国警備官も「力入れるでしょう、帰らないっていうでしょう、全部悪いことだよ」という発言をしていて、①②に合っています。
 なお、一審判決は、①②③を理由に暴行をすることを、違法でないとして、入管の行為を許してしまっています。とても了解できません。
 「原告は、待機室において長椅子に座った後、「断続的に全身に力を入れるなどの抵抗」とありますが、全身に力を入れたことは、動画を見ても確認できません。仮に体の一部に力を入れたことがあったとしても、体を動かさないままなので、危険がありません。
 また「実際に、後記ウ以下で説示するとおり原告はその後も強い抵抗を繰り返した」は、未だその時点で根拠のないことを理由に暴行をするのですから、問題があります。また、そもそも、判決のウの項で書かれているA氏の動きは、苦痛を与えられてもがいて腰を浮かせただけであり、抵抗ではありません。
 一審判決が、このような不合理な判示をした理由は、分かりません。ただ、一審の3人の裁判官のうち右陪席という立場の人は、平成26年から29年まで、法務省に出向していた経験のある(いわゆる「判検交流」)人であるようです。入管法改定の審議を前にしていた時期の判決であり、裁判所の中立公正性への信頼が損なわれると思います

送還を拒絶する意思への暴行
 最大の問題は、①の「送還を拒絶する発言をしたこと」で暴力を行うことです。
 デニズ氏の名で知られるクルド人難民の、東京地裁令和元年(ワ)第21824号国家賠償請求事件は、東日本入国管理センターに収容されていたデニズ氏が、入国警備官に暴行を受けたことなどを主張した国家賠償請求事件です。その暴行の一部にも、「後ろ手に手錠をされ、かつ、入国警備官が多数いる中で、両手を後ろで組み、それを上に上げるようにして苦痛を与える行為」などがあり、デニズ氏の訴訟の一審判決は、これらを違法としました。判決は、「抵抗をしていない。防声のために有形力行使することは、目的のため合理的な行為とはいいがたい」と述べています。
   https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000063
 身体の動きとして何も示されていないにもかかわらず、内心の抵抗意思だけを理由にして苦痛を与えるということは、違法です。

「送還忌避者」への拷問

 さらに、帰らないと言い続けることを理由に暴行することは、拷問にあたると考えます。
 憲法36条は、拷問を絶対に禁止します。
 また、市民的及び政治的権利に関する国際規約(「自由権規約」)7条も、拷問を禁止します。
 「拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は刑罰に関する条約」(「拷問等禁止条約」)は、拷問の定義を示していて、その中で「人に重い苦痛を故意に与える行為であって、脅迫し若しくは強要することその他これらに類することを目的として、かつ公務員その他の公的資格で行動する者により行われるもの」は拷問としています。
 「帰国しない」という、送還を忌避する意思を失わせるために、重い苦痛を与えることは、拷問であり、許されないのです。

入管法改悪で送還停止効が制限されたら

 今回の入管法改定案では、難民認定申請者を含む「送還忌避者」を抑圧することが主目的となっています。
 難民認定申請をしていればその間は送還が停止される「送還停止効」が、現行法にはありますが、入管法改定によって、2回不認定処分を受けてしまうと、効力を打ち切られ、送還執行ができるようになります。
 しかし、今の、難民として保護される人が申請者の1%程度という制度のもとでは、申請者の99%が最終的には送還対象となるわけで、帰国後のことを真剣に恐れる人たちも送還されてしまいます。
 A氏が送還を忌避する意思を示していたために、入国警備官がA氏に暴行をしたとすれば、2回不認定処分を受けて、なお送還を忌避する人たちは、その意思を抑圧する目的で、激しい暴力すら、受けることになるでしょう。
 A氏が受けた暴行を許容してしまった一審判決は、つまりそのような暴行の横行を、容認してしまうようなものなのです。
  

入管法改悪後の「マイスモールランド」

弁護士 大橋 毅


映画「マイスモールランド」

 「マイスモールランド」という映画をご覧になった方も多いと思います。
   映画の公式サイトのストーリー紹介では、次のように書かれています。

 

 

17歳のサーリャは、生活していた地を逃れて来日した家族とともに、幼い頃から日本で育ったクルド人。
現在は、埼玉の高校に通い、親友と呼べる友達もいる。夢は学校の先生になること。

父・マズルム、妹のアーリン、弟のロビンと4人で暮らし、家ではクルド料理を食べ、食事前には必ずクルド語の祈りを捧げる。 「クルド人としての誇りを失わないように」そんな父の願いに反して、サーリャたちは、日本の同世代の少年少女と同様に“日本人らしく”育っていた。

進学のため家族に内緒ではじめたバイト先で、サーリャは東京の高校に通う聡太と出会う。
聡太は、サーリャが初めて自分の生い立ちを話すことができる少年だった。
ある日、サーリャたち家族に難民申請が不認定となった知らせが入る。

在留資格を失うと、居住区である埼玉から出られず、働くこともできなくなる。
そんな折、父・マズルムが、入管の施設に収容されたと知らせが入る……。 

 

 

映画「マイスモールランド」の法律的解説

 まず、主人公の一家に日本で起きたことを法律的にみてみましょう。
認定申請者の地位は、審査を受けるための在留資格がある人と、仮放免という仮の地位しかない人と、その中間で「仮滞在」という仮の地位を有する人と、おおよそ三種類あります。
 空港に着いたときに、難民であることを主張すると、「一時庇護上陸申請をするように」と指導されて、これを申請すると、最大でも7日以内、実務上は数日で自分が難民であることを証明しなければなりません。審査を受けるための資格を与えてくれることはないのです。証明できないと、とんぼ返りで帰国するよう言われ、帰国しないと不法上陸扱いを受けます。
 空港で難民であることを主張せず、観光などの短期の滞在として入国しようとしても、入管から、難民認定申請をするのではないかと疑われると、上陸を拒否され、収容所に入れられます。未成年者は、「仮滞在」資格で解放されることもありますが、そうでない場合、仮放免が許可されて解放されるまで、何か月も、また時期によっては何年も収容が続きます。
 空港で難民として訴えず、運よく短期の滞在者として入国が許されてそれから難民認定申請をすると、「特定活動」という在留資格を得て、審査を受ける間更新することができます。主人公の一家は、この場合に当たります。
 難民認定申請の結果、難民と認められないと、せっかく更新されてきた「特定活動」の資格も更新が打ち切られ、オーバーステイにさせられます。
 納得できずにもう一度難民認定申請をしたり、裁判をしたりしても、在留資格は復活せず、ただ仮放免許可を受けるだけです。
 仮放免許可を受けるについては、通常、保証人をつけて、保証金を国に預けることになります。保証人は、弁護士がなることが多いので、映画では、平泉成さん演じる弁護士が保証人である可能性が高いです。他に、支援者や親族がなることもあります。
 保証金などの他に、入管庁は、仮放免許可に伴って、いろいろ条件を付けていて、住んでいる県を出るには事前の許可を受けなければならないというのも、その条件の一つです。職業を持ったり、報酬を受ける仕事をしてはいけないというのも、条件の一つとして、2015年10月から、入管庁が付けるようになりました。
 条件に違反したことが入管庁に把握されると、仮放免が取り消されて、収容所に入れられることがあります。また、保証金が没収されます。主人公の父親が、収容所に入れられたのは、このためです。
 収容所というのは、刑務所や留置場と違って、入管庁の中にある拘禁施設です。
 主人公が救われるチャンスがあるでしょうか。
 難民認定申請をした場合、難民と認められなくとも、在留特別許可を受ける制度が設けられています。だから、制度としてはチャンスがあります。ただ、実際に入管庁が自発的に、難民認定申請者の子供たちに在留許可をした例は、聞いたことがありません。



入管法改悪で、監理措置制度でないと解放されない

  さて、ここからが本題です。現行制度でも苦難に直面していた主人公ですが、入管法が改悪されたら、どう変わるのでしょうか。
 まず、仮放免という制度は、重い病気などの例外的な場合にしか使われなくなり、替わりに「監理措置」という制度が置かれます。
 仮放免では、保証人がいなくても例外的に解放される場合がありますが、監理措置では、監理人がいないと解放されません。これは未成年である主人公のきょうだいも同じです。
 おそらく、弁護士が、一家の監理人になるでしょう。
 一家は、「被監理者」と呼ばれる地位に置かれます。



入管法改悪で、弁護士が就労を監視し通報する

  監理人は、仮放免の保証人と異なり、被監理者が監理措置条件を守るように監督することになっています。
  そして、入管庁から要求されると、監理人は被監理者に関して報告をすることになっています。
 また、被監理者は、原則として働くことが禁じられており、特に、強制送還の決定を受けてしまうと、就労の許可は出ることがありません。働いているかどうか、働いているおそれがあるかどうかも、報告事項になります。
  つまり、主人公の父親が働いていると、監理人である弁護士が、そのことを入管庁に通報するということです。
 映画で、主人公の父親が捕まってしまいますが、入管法改悪後であれば、弁護士が通報したことで捕まる可能性があります。



入管法改悪で、弁護士が通報することに同意しないと、収容される

 弁護士が、依頼者のことを通報するようなことは、おかしいと思われるかもしれません。主人公の父親も、弁護士に、「どうして通報したんだ!」と怒りたくなるかもしれません。そもそも弁護士は依頼者の秘密を守るものなのではないかと疑問が生じます。
 しかし、怒ることは許されません。衆議院の審議の中で、政府は、監理人が弁護士である場合に、弁護士の守秘義務を放棄することの同意書を、本人から取ることを検討していると答弁しているのです。
 本人は、同意をしなければ、監理措置で解放されることはなく、収容所に入れられてしまうのですから、同意をせざるを得ません。
   同意を踏まえて通報した弁護士自身が接見に来て、味方のようにアドバイスをしたら、主人公の父親ははらわたが煮えくり返ることでしょう。



入管法改悪で、難民が働くと警察に捕まる

 映画では、主人公の父親は、入管の収容所に拘束されています。
 しかし、入管法改悪後は、監理措置の下で、許可なく働いた場合、監理措置が取り消されるだけでなく、処罰対象にもあたることになっています。
 だから、主人公の父親は、まず留置場に入れられ、有罪判決を受けたうえで、前科を有する者として収容所に入れられる可能性もあります。



入管法改悪で、主人公が在留許可される機会が狭まる

  主人公が、難民認定手続の中で、在留特別許可の審査を受ける制度があると、前に書きました。
 しかし、今回の入管法改悪では、難民認定手続の中で在留特別許可の審査を受ける制度は、なくなります。
 全く在留特別許可の可能性がなくなるのでなく、「職権による許可」といって、審査するかどうかも入管庁の裁量に委ねられた形で許可される可能性は残るのですが、制度があった今まででも入管庁は許可をしようとしなかったのですから、ほとんど可能性がなくなることは間違いありません。
 また、改悪後の入管法には、在留特別許可の判断の際に考慮する要素を示す条文があるのですが、そこに挙げられた要素に、日本で教育を受けて育った子どもたちが日本に定住できるよう考慮することが、はっきり書かれていません。衆議院の審議で「在留特別許可の運用のガイドラインを作る」と説明されていますが、そのガイドラインに盛り込まれる予定の要素にも、日本で教育を受けて育った子どもたちが日本に定住するよう考慮することが、はっきり触れられませんでした。この点でも、主人公のきょうだいたちの将来が、映画の場合以上に閉ざされる恐れがあります。



「800人の仮放免中の逃亡者増」は監理措置制度の理由になるか

弁護士 大橋 毅
 
 
 

 800人の仮放免中の逃亡者増が監理措置の裏付けにされた

 
 監理措置について、「この法案が成立していた場合、令和4年度末時点における仮放免後の逃亡者は約1,400人、速報値となっておりますが、監理措置制度があれば逃亡者を減らすことができたのではないかということについてお伺いさせていただきます」という質問に対して、出入国管理庁西山次長は「これもまた仮定のご質問でございますので、なかなかお答えは困難ではございますが、本法案では、前回提出法案と同様、監理人の監理の下で、逃亡等を防止しながら、収容をせずに退去強制手続を進める監理措置を創設し、監理人による指導監督などの監理の仕組みなどを規定すると共に、監理措置または仮放免中の逃亡等の行為に対する罰則を設けることにより、退去強制手続中に収容されていない者の逃亡等を防止することとしております。したがいまして、この制度の下では、ご指摘の現状を改善することができるというふうに考えております。」と説明されています(衆議院法務委員会令和5年4月18日)
 また、「現行の仮放免制度というのは、制度上、逃亡を防止する手立てが講じられていないというのは一つの原因でございます。」(同月19日)という政府答弁もされています。
 入管庁のHPの法案資料「現行入管法の課題」によれば、仮放免中の逃亡者が、令和4年の1年間で、599人から約1,400人に、約800人急増しているとのことです。
 
 これは、仮放免制度の欠陥によるものなのでしょうか?

 実は、令和3年から同4年にかけて、非正規滞在者について特別な事態が起きていて、その影響で逃亡者が急増しています。
 令和4年12月末時点で、ベトナム国籍の「送還忌避者」が497人いて、その9割にあたる455人が、仮放免逃亡者になっています(前者は移住連調べ。後者は参議院法務委員会3月17日出入国管理庁西山次長答弁)。つまり、令和4年に約800人も増加したとされる仮放免逃亡者の、半数以上が、ベトナム国籍で占められています。もちろん、仮放免逃亡者の国籍別第1位になっています。第2位はタイ(220人)で、タイ国籍も、突然急増しています。 
 



 

ベトナム国籍のオーバーステイ人数の急激な減少

 入管庁が「不法残留者」と呼ぶ、オーバーステイ、つまり入管庁から許可された在留期間を超えて日本に在留する人たちは、コロナ禍前の2020年1月1日総数82,892人、うちベトナム国籍が最も多く15,561人(前年比39.8%増)、またタイ国籍が8,872人(前年比18.6%増)でした。
 2021年1月1日時点でオーバーステイの総数82,868人、やはりベトナム国籍が最も多く15,689人、タイ国籍が4位で8,691人でした。
 ベトナム国籍のオーバーステイの人たちは、多くが、技能実習生として来日し、受け入れ先からいなくなった人たちと思われます。
 近年、ベトナム国籍者の人数が急増していて、令和5年現在約48万人、国籍別で第2位になっています。ほとんどが、技能実習生と留学生です。
 技能実習制度については、多くの問題点が指摘されていて、米国国務省からは奴隷労働のおそれさえ指摘されているため、問題のある受入れ先からいなくなる人が少なくないのです。それでも、48万人に対する15,689人は3%にすぎません。

  さて、上記のオーバーステイ人数に、2022年大きな動きがあります。2022年1月1日時点でオーバーステイ総数66,759人に減少し、ベトナム国籍が第4位の7,716人と急減しました。
 2023年1月1日時点では、総数70,491人、うちベトナム国籍が再度増加して1位、13,708人となっています。(各年における「本邦における不法残留者の推移について」)

ベトナム国籍のオーバーステイ9,000人以上の出頭と、約8割の在留許可

 2022年にオーバーステイ人数が急減した理由は、入管庁「現行入管法の課題」と、出入国管理統計における国籍別統計によって推定できます。
 近年、年あたり2,000件程度だった、退去強制手続における異議申し立て件数が、令和3年、突然9,697件に急増します。そのほとんどがベトナム国籍だったことが、同年の収容令書発付総数13,783件のうちベトナム国籍者が9,209人だったことから推定できます。これは、新型コロナウイルス禍を契機として在留資格を与える可能性があることを示唆した出頭の呼びかけが行われ、その情報が、ベトナム国籍者を中心に周知されたことによると思われます。
 そして、9,697件の異議申立件数のうち、9割を超える8,793人に、在留特別許可がされます。ベトナム国籍に限った在留特別許可数の統計はありませんが、ベトナム国籍者への退令発付数が2,120件に過ぎないことからすると、8割近くが在留許可を受けたようです。
 


ベトナム国籍の「送還忌避者」の急増

 このように、分母が急に膨張したことで、割合としては大きくなくても、在留特別許可を期待しても受けられなかった人たちも増加します。すなわち、令和4年末におけるベトナム国籍の「送還忌避者」数は497人に急増します(移住連調べ)。令和2年12月末時点では、ベトナム国籍は、「送還忌避者」の国籍別内訳で10位にも入っていませんでした(「現行入管法の問題点」5頁)
 入管庁は、令和3年末における「送還忌避者」数を3,224人、令和4年末における「送還忌避者」数を4,233人と発表していて、令和4年中に、約1,000人増えています。
 「送還忌避者」は、累積するだけでなく、難民認定や在留許可を受けたり、あるいは送還されることで減少するので、プラスマイナスで約1,000人ですが、1,000人強がプラスになったことは間違いないでしょう。
 そのうち497人近くがベトナム国籍ということになります。他に、タイ国籍の仮放免中逃亡者が220人に増えたらしいので、これに近い人数の「送還忌避者」が増えたのでしょう。さらに、トルコ国籍の「送還忌避者」が426人から669人に243人増えていますので、1,000人強の内訳のほとんどが分かります。
 
 このように、「送還忌避者」増の半分は、ベトナム国籍だったようです。
 

令和3年に在留特別許可されなかった人たちの不許可理由

 送還忌避者の中の前科のある人の人数は、令和3年末で3,224人中1,133人、令和4年末で4,223人中1,626人(衆議院法務委R5.4.25・28頁)とのことで、分母が約1,000人増えたのに対して前科のある人が約500人増えていますす。
 前述の、トルコ国籍の送還忌避者約250人の増加は、映画の題名にちなんで「マイスモールランド型」とでも呼ぶべき、従来は在留資格があったのに、難民不認定とされて在留資格の更新を不許可とされた人たちがほとんどです。彼らは、在留資格があったので、原則として前科がありません。
 そうすると、主としてベトナム国籍の送還忌避者500人近くの増加分が、前科を有していたと考えられます。そのために在留特別許可を受けられなかったのではないかと推測されます。
 

ベトナム国籍の仮放免逃亡者の急増

ベトナム国籍の仮放免逃亡者の急増
 そして、ベトナム国籍「送還忌避者」497人の9割にあたる455人が、仮放免逃亡者になっています。
 つまり、令和4年に約800人も増加したとされる仮放免逃亡者の、半数以上が、ベトナム国籍で占められています。令和2年12月末の、全ての国籍の仮放免逃亡者総数(つまり過去10年以上の逃亡者の累積数)が412人、同3年12月末の総数が599人だったことと比べると、ベトナム国籍だけで455人という数字がどれだけ多いかが判ると思います。
 彼らが仮放免許可された時、保証人や保証金はあったのでしょうか。1年間で497人を超える仮放免者が生じたときに、これに対応する保証人や保証金納付があったとは考えられず、ほとんどが、保証人も保証金もなく、居住場所の確認もないまま、入管庁の職権によって仮放免されたのではないかと推測されます。そうであれば、逃亡が急増して当然ではないかと思います。
 つまり、仮放免制度の問題点ではなく、入管庁が行った特別な措置によって、令和4年だけ、分母となる被退令仮放免が急増し、さらに仮放免に保証金も住居確認もなかったため逃亡が急増したと考えられます。
 以上のとおり、約800人の逃亡者増は、9,000人超のベトナム国籍のオーバーステイの動向からこぼれた、ほんの一部です。
 ベトナム国籍の来日外国人数が現在約48万人、その大きな分母の動向に、この数年の入管統計数値が大きく左右されています。分母が大きいので、多少の割合の動向が、数百人、数千人の変化を結果してしまうのです。455人の仮放免逃亡者は、48万人の0.1%にもなりません。これを、従来の難民認定申請者らと区別せずに合算するのでは、実態を把握できなくなります。

 難民認定申請者の逃亡は増えていない

  ベトナム国籍者の難民認定申請者は、令和2~4年に国籍別26位以下、10人以下(正確な人数不明)です。つまり、上記のベトナム国籍「送還忌避者」に、難民認定申請者はほとんどいません。
  もともと、複数回難民認定申請を繰り返している人たちに、逃亡が多いかどうかを見ると、とても少ないのです。複数回難民認定申請を繰り返している国籍の上位2か国であるトルコ、ミャンマー(現時点では多くが在留許可)についてみても、逃亡率は低いのです。
  令和5年4月28日の衆議院法務委員会質疑で、前科を有する仮放免者の逃亡事案等から、送還停止効に制限を設けることが妥当だという発言がありますが、根拠がありません。令和4年の逃亡者数をもって、複数回申請をする難民認定申請者に対して厳しい措置を講じる理由には、なりえないのです。

送還停止効の解除が、真の難民に逃亡を迫る  

 真摯に救済を求めて複数回難民認定申請をしていた人たちが、送還の危険に追い詰められること、そのことの方がよほど、逃亡の可能性を高めるのではないかと思います。歪んだ制度が、歪んだ結果をもたらすでしょう。

監理措置は逃亡を防止しない

 他方で、いったい、監理措置になると逃亡防止の効果があるという根拠があるのでしょうか。仮放免の保証人も、監理措置の監理人も、本人と同居している人がなるのでない限り、ずっと監督できるわけでないので、逃亡を防ぐような機能はほとんどないと思います。

2023/5/25


入管庁の差別的「共生社会」

 出入国在留管理庁(以下「入管庁」)が、2021年12月に、「現行入管法上の問題点」という資料(以下「新資料」)を発表しています。

 入管庁は、昨年の通常国会に提出され廃案となった法案とほぼ同内容の出入国管理及び難民認定法改正法案を、再提出して可決成立させることを目指していて、そのために作成された資料のひとつです。

 最初のページに、「共生社会」という題名が付されていて、共生社会実現のために法改正が必要という主張のようです。
 入管庁は、「共生社会」について、次のように述べています。


 「受け入れる側の日本人が共生社会の実現について理解し協力するよう努めるだけでなく、受け入れられる側の外国人もまた日本のルールの理解に努め、守っていくことが必要である。
 我が国に入国・在留する全ての外国人が適正な法的地位を保持することにより、外国人への差別・偏見をなくし、日本人と外国人が互いに信頼し、人権を尊重する共生社会の実現を目指す。」



 前半を整理すると、こういうことのようです。
 

受け入れる側の日本人
➡︎ 共生社会の実現について理解し協力するよう努める


 

受け入れられる側の外国人
➡︎ 日本のルールの理解に努め、守っていく


 

 入管庁の「共生社会」では、受け入れる側の日本人と、受け入れられる側の外国人は、明確に立場が違います。受け入れる側の日本人は、「共生社会」実現のために守るべきルールはないという説明のようです。受け入れられる側の外国人は「ルール」を守るよう要求されますが、それは「日本のルール」となっていて、「共生社会」実現のために日本のルールが変わることもないようです。
 日本政府や法務省が、受け入れる側の日本人に含まれるかどうか、明確に書かれていませんが、おそらくそうなのでしょう。
 日本政府は、国際機関である人種差別撤廃委員会から「人種差別を禁止する個別の包括的な法律を制定することを要請する。」(人種差別撤廃委員会 日本の第10回・第11回定期報告に関する総括所見11項)という勧告を受けていますが、無視していて、確かに共生社会実現のためのルールを作るつもりも守るつもりもないようです。
 「日本のルール」にしても、入管庁自ら策定して公表している「在留特別許可に関するガイドライン」について、入管庁自ら、守っていないし、守らなくても良いと裁判で主張しています。
 入管庁は、難民認定申請者の審査請求棄却を決めても、本人への決定通知を遅らせ、強制送還担当部門と調整の上、決定通知当日に強制送還をすることで、提訴や再申請を防ぐという送還手法を、行ってきました。このような送還手法は、2014年から2016年までだけで少なくとも48件行われたことが分かっています。2021年9月22日、このような送還手法が、裁判を受ける権利を侵害し憲法32条に違反する旨を、東京高裁が判断しました(確定)。判決後、このような送還手法を導入した責任の所在は明らかにされていません。法務大臣が令和3年12月24日の会見で「外国人と日本人がお互いを認め、尊重し合って、安全・安心に暮らしていく共生社会を実現する上で、外国人の人権に配慮しつつ、ルールに則って外国人を受け入れ、適切な支援をしていくこと、ルールに違反する者に対しては厳正に対応していくことは、出入国在留管理行政の原則、大前提です」と発言されていますが、最高法規である憲法に違反した者に対して厳正な制裁が加えられたという情報はありません。

 また、「新資料」の入管庁の「共生社会」の後半部分は、
 

我が国に入国・在留する全ての外国人が適正な法的地位を保持すること

により、

外国人への差別・偏見をなくす。日本人と外国人が互いに信頼し、人権を尊重する


としています。これを裏返すと、
 

 適正な法的地位を保持しない外国人は差別・偏見の対象とされ、不信の対象となり、人権が尊重されない

 
 ことになります。
 なるほどそうであれば、「新資料」が、ことさらに送還忌避者について「不法残留者等」とか「前科」とか、差別・偏見を助長する記述をし、「社会不安を増大させかねない」と不信を助長する記述をし、法案で人権侵害をしようとすることも、一貫した立場と言えます。

 同じ「共生社会」という言葉でも、厚労省が障害者施策に関連して示す「共生社会」は、かなり違っています。


 厚労省ホームページの「特別支援教育のあり方に関する特別委員会報告」には
「共生社会とは、これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障害者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会である。それは、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様なあり方を相互に認め合える全員参加型の社会である。」
 
とあります。
 「障害者にルールを守らせる」とかいった、立場の区別を前提とするのではなく、同じ立場で人格と個性を尊重し合うこと、またそのために必要なエンパワーメントを求める文章です。
 
 入管庁は
「共生社会とは、これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった外国人等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会である。それは、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様なあり方を相互に認め合える全員参加型の社会である。」
 
と述べることはできなかったのでしょうか。


 最近、SDGsという言葉が、社会の大きな指針となりつつあります。2015年9月25日第70回国連総会で採択された、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」の通称です。
 このSDGsには、「共生社会」という言葉ではありませんが、次のような記述があります。(外務省仮訳)

19.(人権)我々は、世界人権宣言及びその他の人権に関する国際文書及び国際法の重要性を確認する。我々は、全ての国が国連憲章に則り、人種、肌の色、性別、言語、宗教、政治若しくは信条、国籍若しくは社会的出自、貧富、出生、障害などの違いに関係なく、全ての人の人権と基本的な自由の尊重、保護及び促進責任を有することを強調する。


 これは、正規の地位のない外国人に人権を認めない入管庁の立場と違っていて、厚労省の「共生社会」と通じるところがあります。

23 (脆弱な人々)脆弱な人々はエンパワーメントがされなければならない。新アジェンダに反映されている脆弱な人々とは、子供、若者、障害者(その内80%が貧困下にある)、HIV/エイズと共に生きる人々、高齢者、先住民、難民、国内避難民、移民を含む。(以下略)

29 
(移民)我々は、包括的成長と持続可能な開発に対する移民の積極的な貢献を認識している。
・・・
我々は、移民に対し、その地位、難民及び避難民を問わず、人権の尊重や人道的な扱いを含む安全で秩序だった正規の移住のための協力を国際的に行う。
(以下略)


目標10.2 
2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、全ての人々のエンパワーメント及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。


 これは、(広義の)移民が、持続可能な開発にとってポジティブであることを認め、置かれている地位にかかわらずエンパワーメント、社会的包含を促進するというのですから、正規の地位のない外国人への差別・偏見・不信を温存、助長する入管庁の立場と違います。特に、移民に対しその地位を問わず、人権の尊重や人道的な扱いを含む、正規の移住のための協力をするのですから、法的地位がない移民にもできるだけ法的地位を付与することが要請されているのではないでしょうか。
 入管庁が、難民認定を担当していて、その認定数が異常に低いことは、かなり知られていることです。
  また前述のように入管庁は「在留特別許可に関するガイドライン」を守らないため、在留特別許可されることが妥当な人でも許可がされない例が少なくありません。
 ほかにも入管庁は、空港での入国時に、その外国人を難民認定申請をしそうだと疑うと、在留資格を付与せず、ほとんどの場合収容してしまいます。
 難民認定申請者が、難民認定申請者としての活動を行う「特定活動」を得た場合でも、2回目の申請になったときなどに、在留資格の更新不許可処分をして、オーバーステイにしてしまいます。
(全難連 「法務省「難民認定制度の運用の更なる見直し後の状況について」に対する抗議声明」(http://www.jlnr.jp/statements/2018/jlnr_statement_20181010_j_final.pdf)
 参照)
 在留資格を持って、日本の中学や高校で就学している若者が、入管庁によってオーバーステイにされてしまった例もあり、最近の映画「マイスモールランドで滞在になっています。
 難民認定申請者や非正規な地位の外国人を抑圧せず、できるだけ、エンパワーメントによって、社会に貢献してもらう方が良いのではないでしょうか。

また、SDGsは、
目標16.b 持続可能な開発のための非差別的な法規及び政策を推進し、実施する。


と述べています。最初に述べた、人種差別撤廃法の制定も、必要です。