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移民・難民の排除ではなく、共生を
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入管庁の差別的「共生社会」

 出入国在留管理庁(以下「入管庁」)が、2021年12月に、「現行入管法上の問題点」という資料(以下「新資料」)を発表しています。

 入管庁は、昨年の通常国会に提出され廃案となった法案とほぼ同内容の出入国管理及び難民認定法改正法案を、再提出して可決成立させることを目指していて、そのために作成された資料のひとつです。

 最初のページに、「共生社会」という題名が付されていて、共生社会実現のために法改正が必要という主張のようです。
 入管庁は、「共生社会」について、次のように述べています。


 「受け入れる側の日本人が共生社会の実現について理解し協力するよう努めるだけでなく、受け入れられる側の外国人もまた日本のルールの理解に努め、守っていくことが必要である。
 我が国に入国・在留する全ての外国人が適正な法的地位を保持することにより、外国人への差別・偏見をなくし、日本人と外国人が互いに信頼し、人権を尊重する共生社会の実現を目指す。」



 前半を整理すると、こういうことのようです。
 

受け入れる側の日本人
➡︎ 共生社会の実現について理解し協力するよう努める


 

受け入れられる側の外国人
➡︎ 日本のルールの理解に努め、守っていく


 

 入管庁の「共生社会」では、受け入れる側の日本人と、受け入れられる側の外国人は、明確に立場が違います。受け入れる側の日本人は、「共生社会」実現のために守るべきルールはないという説明のようです。受け入れられる側の外国人は「ルール」を守るよう要求されますが、それは「日本のルール」となっていて、「共生社会」実現のために日本のルールが変わることもないようです。
 日本政府や法務省が、受け入れる側の日本人に含まれるかどうか、明確に書かれていませんが、おそらくそうなのでしょう。
 日本政府は、国際機関である人種差別撤廃委員会から「人種差別を禁止する個別の包括的な法律を制定することを要請する。」(人種差別撤廃委員会 日本の第10回・第11回定期報告に関する総括所見11項)という勧告を受けていますが、無視していて、確かに共生社会実現のためのルールを作るつもりも守るつもりもないようです。
 「日本のルール」にしても、入管庁自ら策定して公表している「在留特別許可に関するガイドライン」について、入管庁自ら、守っていないし、守らなくても良いと裁判で主張しています。
 入管庁は、難民認定申請者の審査請求棄却を決めても、本人への決定通知を遅らせ、強制送還担当部門と調整の上、決定通知当日に強制送還をすることで、提訴や再申請を防ぐという送還手法を、行ってきました。このような送還手法は、2014年から2016年までだけで少なくとも48件行われたことが分かっています。2021年9月22日、このような送還手法が、裁判を受ける権利を侵害し憲法32条に違反する旨を、東京高裁が判断しました(確定)。判決後、このような送還手法を導入した責任の所在は明らかにされていません。法務大臣が令和3年12月24日の会見で「外国人と日本人がお互いを認め、尊重し合って、安全・安心に暮らしていく共生社会を実現する上で、外国人の人権に配慮しつつ、ルールに則って外国人を受け入れ、適切な支援をしていくこと、ルールに違反する者に対しては厳正に対応していくことは、出入国在留管理行政の原則、大前提です」と発言されていますが、最高法規である憲法に違反した者に対して厳正な制裁が加えられたという情報はありません。

 また、「新資料」の入管庁の「共生社会」の後半部分は、
 

我が国に入国・在留する全ての外国人が適正な法的地位を保持すること

により、

外国人への差別・偏見をなくす。日本人と外国人が互いに信頼し、人権を尊重する


としています。これを裏返すと、
 

 適正な法的地位を保持しない外国人は差別・偏見の対象とされ、不信の対象となり、人権が尊重されない

 
 ことになります。
 なるほどそうであれば、「新資料」が、ことさらに送還忌避者について「不法残留者等」とか「前科」とか、差別・偏見を助長する記述をし、「社会不安を増大させかねない」と不信を助長する記述をし、法案で人権侵害をしようとすることも、一貫した立場と言えます。

 同じ「共生社会」という言葉でも、厚労省が障害者施策に関連して示す「共生社会」は、かなり違っています。


 厚労省ホームページの「特別支援教育のあり方に関する特別委員会報告」には
「共生社会とは、これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障害者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会である。それは、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様なあり方を相互に認め合える全員参加型の社会である。」
 
とあります。
 「障害者にルールを守らせる」とかいった、立場の区別を前提とするのではなく、同じ立場で人格と個性を尊重し合うこと、またそのために必要なエンパワーメントを求める文章です。
 
 入管庁は
「共生社会とは、これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった外国人等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会である。それは、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様なあり方を相互に認め合える全員参加型の社会である。」
 
と述べることはできなかったのでしょうか。


 最近、SDGsという言葉が、社会の大きな指針となりつつあります。2015年9月25日第70回国連総会で採択された、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」の通称です。
 このSDGsには、「共生社会」という言葉ではありませんが、次のような記述があります。(外務省仮訳)

19.(人権)我々は、世界人権宣言及びその他の人権に関する国際文書及び国際法の重要性を確認する。我々は、全ての国が国連憲章に則り、人種、肌の色、性別、言語、宗教、政治若しくは信条、国籍若しくは社会的出自、貧富、出生、障害などの違いに関係なく、全ての人の人権と基本的な自由の尊重、保護及び促進責任を有することを強調する。


 これは、正規の地位のない外国人に人権を認めない入管庁の立場と違っていて、厚労省の「共生社会」と通じるところがあります。

23 (脆弱な人々)脆弱な人々はエンパワーメントがされなければならない。新アジェンダに反映されている脆弱な人々とは、子供、若者、障害者(その内80%が貧困下にある)、HIV/エイズと共に生きる人々、高齢者、先住民、難民、国内避難民、移民を含む。(以下略)

29 
(移民)我々は、包括的成長と持続可能な開発に対する移民の積極的な貢献を認識している。
・・・
我々は、移民に対し、その地位、難民及び避難民を問わず、人権の尊重や人道的な扱いを含む安全で秩序だった正規の移住のための協力を国際的に行う。
(以下略)


目標10.2 
2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、全ての人々のエンパワーメント及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。


 これは、(広義の)移民が、持続可能な開発にとってポジティブであることを認め、置かれている地位にかかわらずエンパワーメント、社会的包含を促進するというのですから、正規の地位のない外国人への差別・偏見・不信を温存、助長する入管庁の立場と違います。特に、移民に対しその地位を問わず、人権の尊重や人道的な扱いを含む、正規の移住のための協力をするのですから、法的地位がない移民にもできるだけ法的地位を付与することが要請されているのではないでしょうか。
 入管庁が、難民認定を担当していて、その認定数が異常に低いことは、かなり知られていることです。
  また前述のように入管庁は「在留特別許可に関するガイドライン」を守らないため、在留特別許可されることが妥当な人でも許可がされない例が少なくありません。
 ほかにも入管庁は、空港での入国時に、その外国人を難民認定申請をしそうだと疑うと、在留資格を付与せず、ほとんどの場合収容してしまいます。
 難民認定申請者が、難民認定申請者としての活動を行う「特定活動」を得た場合でも、2回目の申請になったときなどに、在留資格の更新不許可処分をして、オーバーステイにしてしまいます。
(全難連 「法務省「難民認定制度の運用の更なる見直し後の状況について」に対する抗議声明」(http://www.jlnr.jp/statements/2018/jlnr_statement_20181010_j_final.pdf
 参照)
 在留資格を持って、日本の中学や高校で就学している若者が、入管庁によってオーバーステイにされてしまった例もあり、最近の映画「マイスモールランドで滞在になっています。
 難民認定申請者や非正規な地位の外国人を抑圧せず、できるだけ、エンパワーメントによって、社会に貢献してもらう方が良いのではないでしょうか。

また、SDGsは、
目標16.b 持続可能な開発のための非差別的な法規及び政策を推進し、実施する。


と述べています。最初に述べた、人種差別撤廃法の制定も、必要です。