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入管収容再考 「自白獲得のために保釈を却下し、無期限勾留をする代用監獄」?


弁護士 大橋 毅

 

1 入管収容施設に収容される人々

  名古屋入管の収容施設で2年前にスリランカ国籍女性が亡くなったことが大きく報道されたので、出入国在留管理庁に収容施設というものがあることをご存じの方も多いと思います。「収容」という言葉はいろいろな場合に使われますが、入管法上の収容は、刑事手続の逮捕や勾留と同じく拘禁です。

  日本国籍でない人が、退去強制事由にあたることから、退去強制令書という強制送還の決定を受けることがあります。退去強制令書の執行をするときに、直ちに送還できない場合、収容をすることができるとされています。

  この規定によって収容されている人たちには、難民認定申請中の人もいます。オーバーステイをして暮らすうちに日本人と家族を形成したけれども、在留を許可されていない人もいます。過去に持っていた在留資格を、犯罪をしたことなどによって失ったけれども、日本社会に定着して、帰国を望まない人もいます。処罰を受けた経験がある人も、全く処罰と関係のない人もいます。

ほとんどが、国籍国に帰りたくない事情のある人たちです。

 

2 退去強制令書に基づく収容制度と、収容施設については、人権基準に照らして重大な問題が複数あります。

  ところで、同じ拘禁施設である刑事施設に関して、代用監獄のシステムが、長く批判の対象となってきました。代用監獄は、本来は法務省所管の拘置所に収容されるべき勾留決定後の被疑者・被告人を、警察の留置場に収容し続けることです。このシステムで、犯罪捜査を担当する警察が被疑者の身体を管理しているのをよいことに、真意に反する自白を獲得するため長時間あるいは過酷な取り調べを行うことに使われてきたとして、日弁連は批判しており、監獄法が廃止されて受刑者処遇法に替わって、法令から「監獄」という正式用語がなくなってからも、本質は消えていないとして「代用監獄」の語を使って批判を続けています。

  入管収容の問題性を多くの人に理解していただくについて、代用監獄との類比をしてみましょう。

 

3 「自白獲得を目標にする代用監獄」があったら?

  代用監獄は、さすがに「自白獲得を目標にする」とは表明しません。捜査機関が容疑者の身体を管理すべきでないという批判に対して「警察内部で捜査部門と留置部門を分離した」と警察庁は説明しており、未だ分離が不十分としても、建前として拘禁施設が自白獲得を目指しはしません。

  入管収容施設はどうでしょう。収容されている人たちは、ほとんどが、退去強制事由に当たることを否定はしませんから、そのことについての「自白」を迫られているわけではありません。問題は、帰国できない事情の主張を続けるかどうか、それとも送還を受け入れて、難民認定申請を取り下げたり、自主出国をしたりするかどうかということです。

  この点、入管収容施設では、送還業務との分離がありません。かえって、法務省入国管理局警備課長から入国者収容所長、地方入国管理局長等に宛てた「法務省管警第163号平成30年8月24日「送還忌避者縮減のための重要行正規評価指標の作成について」という通達で、「送還忌避者を縮減するため法務省入国管理局警備課において設定した縮減目標について、入国管理官署は、各項目ごとに毎月の縮減目標値を設定し、その目標に向かって業務遂行する。」、とされており、入管収容施設自体を含む各官署が送還促進を任務とすることを明らかにしています。

  翌年度の通達「平成31年度の送還忌避者縮減のための重要業績指標の作成について」では、入国者収容所主席警備官(執行担当)、地方入国管理局主席警備官(執行担当)等があて先に変わっていますが、収容施設に送還促進を担う部署があり、収容施設と分離されていないことは変わりがありません。

  送還促進努力の対象は、難民認定申請者も含まれていて、彼らにとって送還促進とは、難民の主張をやめさせて送還を受け入れることを意味し、真意に反する自白を迫られるようなものです。

  入管収容施設は、「否認をする被告人からの自白獲得を業績目標に掲げる代用監獄」のようなものなのです。

 

4 自ら保釈を却下する代用監獄があったら?

  被告人について、刑事手続では、保釈申請の制度があります。保釈の可否は裁判所が判断します。十分に機能していないことは言っておかなければなりませんが、少なくとも司法の関与があります。

  入管収容施設はどうでしょう。

  現行入管法上の仮の解放制度として、「仮放免」があります。保釈金と同様に保証金を預けるなどし、収容から解放される制度です。

  仮放免については、誰が判断するかというと、収容施設の長などの入管の官吏が行います。東京出入国在留管理局の収容上から仮放免されるには東京入管局主任審査官の判断になります。主任審査官というのは、退去強制令書を発付する立場の人、つまり送還を進める立場の人です。茨城県にある東日本入国管理センターから解放されるには、同センター所長の判断に委ねられます。いずれにしても、司法の関与はありません。

    「代用監獄の管理者や、捜査責任者が、保釈の却下をする」ようなものです。

  日本が加盟している国際条約に基づく国際機関である拷問等禁止委員会が2013年に、収容の決定について独立した審査が欠如していることに懸念を表明し、自由権規約委員会が2014年に裁判所などに審査を求めることができるようにすべきと勧告していますが、改善されていません。 

 

5 自白獲得のために保釈を却下する代用監獄があったら?

  刑事手続における保釈制度では、一定の場合には保釈が義務付けられ(権利保釈)、それ以外にも裁判官の裁量判断による保釈があり得ます(裁量保釈)。十分に機能していないことは言っておかなければなりませんが、少なくとも一定の基準があり、「自白を獲得するために勾留継続が必要」などとは、建前として言われることがありません。

  仮放免には、権利保釈に相当する、義務的な解放の制度がありません。裁量に委ねられたうえ、基準が法令に明示されていません。入管庁は、仮放免の許否判断を、自由裁量と主張しています。

  2021年に名古屋入管で収容されていた女性が亡くなった事件では、仮放免が不許可となった時の理由の記録が一部公表されています。そこには、「仮放免を許可すれば、ますます送還困難となる」「一度、仮放免を不許可にして立場を理解させ、強く帰国説得する必要あり」(「令和3年3月6日の名古屋出入国在留管理局被収容者死亡事案に関する調査報告書」58頁)などと書かれていました。帰国しなければならないことを受け入れさせるために、仮放免申請を不許可にしたということが書かれているのです。送還を受け入れさせるために仮放免を不許可にすることが、普通に行われていることが示されています。

  「自白を迫るために、保釈を却下する」ようなものなのです。

 

6 無期限に勾留される代用監獄があったら?

  刑事拘禁には、終わりがあります。

  未決勾留は、最大で20日間です。複数容疑があるとされて再逮捕・勾留が繰り返される場合もあり、不当な場合もありますが、それでも無期限の未決勾留はありません。

  起訴後に、保釈が認められず、裁判係属中に勾留が継続すると、勾留期間は長くなります。しかし、それでも、裁判が終われば勾留も終わります。

  退去強制令書に基づく収容は、法令上、期間の上限の明記がありません。入管庁はこれを無期限収容を許容したものと主張しています。仮放免が許可されないことで収容が長期化されることがあり、実際に6年を超えて収容が続いた事例もあるようです。

    「期限のない勾留を利用して自白を迫る代用監獄」というものがあったら、どうでしょうか。

  日本が加盟している国際条約に基づく国際機関である拷問等禁止委員会が2007年と2013年に、また人種差別撤廃委員会が2018年に、収容期間の上限を導入すべきことを勧告していますが、日本は応じていません。

 

7 代用監獄が、自白を迫るために医療を放置したら・・・

  医療が、十分に保障されていないという問題点については、刑事施設についても、入管収容施設についても指摘されてきています。

  ただ、入管収容施設において不気味なのは、前述のとおり入管収容施設自身が、送還促進を目標に掲げていることです。送還促進を責務とする職員たちは、被収容者の疾患の訴えを、解放を得るための詐病ではないかと疑いがちになるでしょう。前述の、名古屋入管における死亡事案の調査報告書には、仮放免を不許可したこととの関連で、亡くなった人について、「支援者に煽られて仮放免を求めて執ように体調不良を訴えてきている者である」(58頁)と書かれていて、送還促進を求めるあまりの詐病の疑いを推測させます。

  さらに、職員が、十分な医療を施さないことが送還促進につながるという考えを抱いたとしたら、恐ろしいことです。日経新聞2022年10月27日で、東日本入国管理センターで、庁内医師が精巣がんの可能性を認めて庁外の専門病院での診療を指示したのに、4か月近く放置され、結局仮放免直後に自分で診療を受けて、緊急手術となった事件で、裁判が和解解決したことが報道されています。一般に、医師の指示から外部病院診療まで、平均2か月も待たせていたことが、裁判で明らかになっています。外部病院での診療ですから、庁内の医療体制の不備と放置とは因果関係がありません。庁内医師による指示があるのですから、詐病の疑いによる放置ともいえません。意図的な放置としか言えないのです。その動機は、「適切な処遇をしないことが送還促進につながる」という考えではないのでしょうか。

    「自白獲得のため保釈を却下し、期限のない勾留と、医療放置を利用して自白を迫る代用監獄」が、実際にあるとしたら、どうでしょうか。

 

8 法案

  令和5年の通常国会に、入管法に関する改定案が政府から提出されています。

  しかし、収容制度と収容施設に関しては、ほぼ仕組みを維持しています。

  仮放免の制度が、例外的なものとされて、代わりに「監理措置制度」が設けられています。

  しかし、監理措置決定をするのは、主任審査官という、退去強制令書を発付する職務の官吏で、また権利的な監理措置がなく、明確な基準がなく、裁量にゆだねられていること、裁判所の関与がないことは、仮放免と同じです。また、監理措置は「監理人」がつかない限りなされず、「監理人」は、継続して被監理者を監督し、条件違反や法令違反(就労など)があれば入管に報告する義務を負わされています。このような仕組みは、身元保証人が法令上必須ではない刑事の保釈制度との違いが大きくなっています。

  さらに、収容が3か月以上続くと、まだ難民認定申請の審査が続いていても関係なく、「退去のための計画」というものを入国警備官が策定して入国審査官に提出することになっていて(改正後の52条の8)、難民認定申請者を含めて、各官署が送還促進に努めるように見えます。無罪を主張する被告人について、捜査担当者と代用監獄とが一体となって、「自白獲得のための計画」を策定していたら、被告人にとって恐怖以外の何物でもないと思います。

以上