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移民・難民の排除ではなく、共生を
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ビザのはなし

弁護士 大橋 毅


俗に「ビザ」と呼ばれているものは、法律では「在留資格」というのが正確な名称です。正式名称が「VISA」というものは別にあって、「査証」といって、通常は各国の外務省出先機関である領事館が出すものです。在留資格あるいは「ビザ」は、あくまでも日本国内の制度です。この文章では、ビザという俗称のまま、使います。



そもそも日本国籍のあるなし

ビザは、日本国籍のない人が正規に日本にいるための資格といえます。
そもそも、日本国籍のない人で日本にいる人はどういう人でしょう。


まず外国籍をもって、外国から来た人、つまり外国人ですね。他に、無国籍の人が外国から日本に来ることもあります。外国人や無国籍の人が外国から到着した場合、日本の通常の手続では、空港や港で上陸許可申請をして、許可されると入管からビザが与えられます。

外国人や無国籍の人が帰化して日本国籍になれば、ビザは要らなくなります。


日本で生まれた人はどうでしょうか。日本の国籍法では、日本で生まれた人でも、親が日本人でないと、日本国籍にならず、外国籍か無国籍になります。血統で国籍が決まる法制度を血統主義と呼びますが、この制度の国は多くありません。多くの国は、自国で出生した子どもに国籍を付与する出生地主義で、血統主義の国でも柔軟に、自国で生まれたある程度の人たちに国籍を与える国がほとんどです。

日本で生まれたけれども日本国籍のない子どもは、生後まもなく「在留資格取得申請」をしなければビザをもらえません。日本で生まれたのに、ビザが必要で、在留が法的に不安定な子どもたちがたくさんいるという事態は、相当程度、日本に特殊なことです。


在留する権利

日本国籍があると、日本に住む権利があるといえます。
日本国籍のない人はどうでしょうか。


「居住移転の自由を保障する憲法22条は外国人の日本への入国については適用がなく、国際慣習法上、外国人の入国の許否は当該国家の自由裁量により決定し得るものであって、特別の条約が存しない限り国家は外国人の入国を許可する義務を負わない」というのが最高裁昭和32年619日判決の多数意見でしたが、この判決には最高裁判官4名の、外国人に入国の自由を認める意見が付されています。

裁判官真野毅の意見「憲法は、近代的な国際交通自由の原則の立場を採つたことを示している。(世界人権宣言一三条参照)」、裁判官小林俊三、入江俊郎の意見「多数意見のように旧来の『国際慣習法上』という前提によりたやすく外国人の入国を憲法の保障外に置くことは、新しき理想を盛つたわが憲法の基本的原理を全く無視するものといわなければなるまい」、裁判官垂水克巳の意見「一般外国人の入国も全般的に永く禁止し鎖国するようなことはせず、ただ公共の福祉上暫定的にのみ禁止することができるとするもの、すなわち、外国人にも入国の自由を、どちらかといえば、認めるに傾いた主義をとつたもの、と考えられる。」

このように、外国人にも日本にいる自由があるという考え方も十分にあり得ます。


ただ、外国人にも居住・移転の自由があるという立場でも、日本人とは異なる制約があるのは仕方のないことと認めるでしょう。日本では、出入国管理及び難民認定法(通称「入管法」)によって、外国人はビザがないと日本にいることができないという制約を負うのが、原則になっています。


ビザの内容

ビザについて、入管法が定めています。入管法で、ビザのことが詳しく、また整理されて定められたのは、平成元年の入管法改正からでした。

運転免許に普通と大型などの種類があるように、ビザにも種類があります。

現行法のビザは、29種類があり、入管法の別表に列挙されています。
全て羅列すると、「外交」「公用」「教授」「芸術」「宗教」「報道」「高度専門職」「経営・管理」「法律・会計業務」「医療」「研究」「教育」「技術・人文知識・国際業務」「企業内転勤」「介護」「興業」「技能」「技能実習」「特定技能」「文化活動」「短期滞在」「留学」「研修」「家族滞在」「特定活動」「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」です。

ビザによって、その目的と、行うことができる活動、できない活動が異なっていて、働くためのビザでは、自分のビザで定められた活動を逸脱・矛盾する活動をすることも、いけないこととされています。

例えば、外国料理のレストランのシェフは、「技能」というビザを持つのが普通です。貿易会社に勤める人は「技術・人文知識・国際業務」を持つのが普通です。

働くためのビザは、どのような人を受け入れて働いてもらうかという政策に基づいて決まっているといってよいでしょう。「日本は単純労働者を受け入れない」と言われることがありますが、それは、「単純労働のためのビザを設けていない」という意味です。ただ、本当にそうかというと、本来は実習のためのはずの「技能実習」のビザが、単純労働者受け入れのために使われていたりして、多くの矛盾を生じています。また2019年に設けられた「特定技能」のビザについて大変議論になったことは記憶に新しいところです。

ビザの種類は、このような政策によるものだけでなく、もっと重要な背景があるものもあります。「日本人の配偶者等」というビザは、俗に「結婚ビザ」「配偶者ビザ」さらには「日配ビザ」などと呼ばれますが、これは婚姻の保護の必要が背景にあって設けられていると言ってよいと思います。



ビザの終了

ビザがあっても、退去強制事由(入管法24条)、例えば実刑判決を受けるとかがあると、退去強制手続に乗せられて、ビザを失い、強制送還の対象になることがあります。

また、ビザには、あらかじめ期間が設けられていて、期間が過ぎる前に期間更新をしないと、期限切れになります。「永住者」ビザだけは例外で、期限がありません。


ビザについての法務大臣の自由裁量

では、期間更新をすることは必ずできるのか、あるいは他のビザに変更することは必ずできるのでしょうか。

法務省は、ビザの更新、変更、在留特別許可の判断は法務大臣等の自由裁量に任されていると常々主張しています。

このことについては、「マクリーン判決」という通称で知られる判決(最高裁判決昭和53年10月4日)があります。60年代終わりから70年代にかけて、学生運動が盛んな時代に、外国人留学生にも政治活動をする人、帰国して入隊することを拒むアメリカ人がいました。米国籍英語講師だったマクリーン氏は、ベトナム戦争反対や、外国人留学生への入管の扱いへの批判等をしていたところ、政治活動を理由としてビザの更新拒否を受けたので、裁判で争いました。

マクリーン判決は、「外国人の在留の許否は国の裁量に委ねられ、我が国に在留する外国人は、憲法上我が国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求することができる権利を保障されているものではなく、ただ、出入国管理令上法務大臣がその裁量により更新を適当と認めるに足りる相当の理由があると判断する場合に限り在留期間の更新を受けることができる地位を与えられているに過ぎないものであり、従って、外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、右のような外国人在留制度の枠内で与えられているに過ぎない」と判示し、マクリーン氏に帰国を強いる入管の措置を肯定しました。

この判決、特に「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、外国人在留制度の枠内で与えられているに過ぎない」という言葉は、法務省が拡大解釈に努め、いくつもの判決がこれに盲従し、ビザの判断を法務省の恣意に委ねるように一人歩きしていきます。

判決の中には、日本にいて難民認定申請をしている外国人について、在留資格を更新しないことで、生存権が保障されなくすることも自由とまでいうものもあります。

しかし一方で、マクリーン判決に対する学者等の批判は多く、またその後日本が加入した人権条約を考慮するべきという意見もあります。最近は、モト最高裁判官も、マクリーン判決の拡大解釈に警鐘を鳴らしています(泉徳治「統治構造において司法権が果たすべき役割【第6回】マクリーン判決の間違い箇所」(判例時報2434号所収))。判決の中にも、一応マクリーン判決を引用しながら、実際には、もっと具体的な基準による判断をしている判決もあります。(例えば大阪高判平成25年12月20日(判時2238号3頁)、福岡高判平成19年2月22日、最判平成8年7月2日第3小法廷判決(判例時報1578号51頁))


ビザを持たない人たち

ビザを失ったけれども日本にとどまる人たち、日本で生まれながらビザを持たない人たちは、非正規移民となっていきます。