非正規移民たち

 

1, 「非正規移民」とは誰か

非正規移民とは、在留資格(「ビザ」)をもたずに、生活している外国人(その国の国籍をもたない人)のことを言います。

例えば、
  • 観光目的(在留資格「短期滞在」)などで入国し、許可された在留期間を超えて、日本で働き、生活している人がいます。単身のまま日本での生活を続けている人もいれば、もともと家族とともに来日したり、しばらくして家族を呼び寄せたり、日本で知り合った同国人などと家族を形成している人もいます。さらに、日本生まれの子どものいる家族もいます。
  • 正規に日本で暮らしていたにもかかわらず、何らかの理由で在留期間の更新が認められなかったり、一定の罪を犯してしまったために、在留資格を失ってしまった人もいます。
  • 技能等を身につけつつ、お金を稼ごうと思って来日した技能実習生が、最低賃金以下の賃金で過酷な長時間労働を強いられたり、雇用主や日本人同僚からパワハラやセクハラを受け、耐え切れず実習先を脱走(「失踪」)してしまった人もいます。
  • 母国での迫害を逃れれて来日し、難民申請したにもかかわらず、認められずに非正規移民として扱われる場合もあります。
 
 非正規移民のなかには、すでに自ら出頭したり、摘発されて、退去強制令書(帰国しなさいという命令書)が発付されている人もいます。そういった人たちは、原則、収容所に収容されるのですが、「仮放免」(一時的に収容が免除されている状態)の人もいます(収容の項へのリンク?)。仮放免者の中には、子どもやお年寄りも含まれています。
非正規移民は就労することが認められていません。一方で、働かなければ生きていくことができません。以前は、政府は非正規移民に対して寛大でしたが、近年、非正規移民に対する取締りが強化されています(詳細は後述)。とりわけ、仮放免者に対する監視が厳しくなっていて、働いていることが見つかると、収容されてしまいます。
 
そのため、仮放免者などは、合法滞在の親族や友人知人、支援者のサポートをうけて日本での生活を続けています。特別定額給付金をはじめとする社会保障の対象外のため、保険もなく、診療費が高額になってしまうため、病気になってもなかなか病院に行くことができません。
 
  一方で、非正規移民であっても、希望すれば学校に通うことができます。非正規移民の子どもたちのほとんどが地域の小中学校に通っています。けれども、経済的事情で入学金や授業料が払えない、いつ送還されるかわからないために、将来の夢を描くことができないでいます。

注)1990年は7月1日、1991年~1996年は各年5月1日、1997年以降は各年1月1日の数値である。
出所:法務省入国管理局『出入国管理』(各年版)、法務省HP(http://www.moj.go.jp/)をもとに筆者作成
図 国籍別「不法」残留者数の推移

 

 

 2, なぜ「非正規移民」になってしまうのかー政策的背景

 上述した通り、非正規移民は、とても困難な状況で日本での生活を送らなければならないので、だれも非正規の状態で生活したり、働いたり、学んだりしたくなどありません。
人びとは、不本意にも非正規移民となってしまうのです。

例えば、
  • 1980年代後半から、90年代、2000年代初めごろまで、政府は、非正規移民に対して寛容であり、その存在を一定程度黙認していました。なぜなら、そうした移民らは貴重な「単純労働者」であったからです(バックドアからの移住労働者)。その結果、地域社会に根付いて、長期に日本で暮らす非正規移民も増えました。やがて、日系人や研修生・技能実習生、留学生など、非正規移民代わって「単純労働」を担う移住労働者が増えてくると、政府は、半減計画(5年間で「不法」残留者を半減する計画、2003年12月)を策定して、非正規移民に対する取締りを強化します。
  • いわゆる「単純労働者」は受け入れないことを基本方針としながらも、政府は、サイドドアから、その受入れを容認しています。89年入管法改定(翌90年施行)によって、かつての日本人移民の子孫は、優遇的に受け入れられ、就労に制限なく働けるようになりました。けれども、日本語学習機会の提供や子どもの教育など、受入れ後のサポートを、政府はまったくと言っていいほど整えていませんでした。その結果、学校にもなじめず、日本社会での居場所をなくしてしまった結果、在留資格を失い、非正規移民になってしまった若者もいます。
  • 技能等の移転を通じた国際貢献を目的とする技能実習制度も、新たに作られ、かつ拡大され続けているサイドドアであり、実際には安価な労働力の供給源として活用されています。国内外からの批判にもかかわらず、建前と実態が異なる制度が継続されることによって、来日のための借金を抱えた技能実習生が、過酷な労働や生活に耐えきれず、非正規移民へと追いやられています。技能等の修得を目的(建前)とする制度ゆえに、技能実習生には原則、職場や職種の変更が認められず、過酷な状況を脱出するための転職という選択が、「失踪」となってしまうのです。
  • 留学生も同様です。政府は「留学生30万人計画」(2008年7月)を策定し、政策的に留学生受入れ拡大を目指しましたが、それを支える奨学金制度などは不十分なまま、日本語学校等に受入れを任せました。その結果、授業料や生活費を稼ぐために、決められた就労時間を超えて働かざるをえず、学校を休みがちになり、非正規移民となってしまう留学生もいます。
  • 必要とする労働者をフロントドアから受け入れるという選択を先延ばしし、受入れ後のサポート体制を整備することなく、一方で、在留資格取消し制度の新設や、新しい在留管理制度の導入によって、移民に対する監視と排除を強化している政府の政策こそが、非正規移民を生み出しているのです。 



3,  非正規移民が安心して日本で暮らすには

非正規移民は在留資格がないため、住民登録ができません。そのため行政の場で住民とみなされず、国民健康保険をはじめほとんどの社会保障の対象からも排除されています。そのため病気になってもケガをしても、必要な医療を受けられないことがしばしばあります。しかし実際には、非正規移民も、同じ地域で暮らし、働く住民です。この実態に即して、住民としての権利が保障されるべきです。
 
また、この地で社会関係や生活基盤を築いている非正規移民の在留を認める方策を積極的に進めることも必要です。非正規移民の場合も暮らしのなかで、人間関係ができ、子どもが生まれたり生活基盤が作られることで、この地が「ホーム」になっていきます。この点は、他の移民や国内の移住者と変わりはありません。とするならば、在留資格がないという理由だけで、非正規移民を「ホーム」から強制的に引き剥がすことは非常に暴力的なことではないでしょうか。

非正規移民の在留を認める方策として、現在でも、法務大臣が裁量により個別に在留を認める「在留特別許可」がありますが、それをより拡大することが必要です。くわえて、多くの移民受け入れ国が採用しているアムネスティも実施する必要があります。これは、一定の基準を充たした非正規移民の在留を一律に認める方法です。出入国管理をしながら移民を受け入れている以上、非正規移民は必ず生み出されます。同じ社会に暮らしているにもかかわらず、在留資格がないがゆえ長期にわたり脆弱な立場におかれる人びとが存在する——こうした現実を認識した上で、人権を重視する国家のとる対応がアムネスティなのです。
 
このように、在留特別許可やアムネスティによって在留権を認めることは、「誰一人取り残さない」社会への一歩といえるでしょう。