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「送還停止効」に例外を設ける脱法行為——— アフリカ出身の男性に対する入国警備官の暴行動画について~その2

弁護士 大橋 毅

 

動画の公開

 入管の入国警備官が、アフリカ系男性(A氏とします。)に暴行をする映像を、公開しました。7日午後2時時点で190万回視聴された媒体もあるようです。

https://twitter.com/ToshihikoOgata/status/1665746115046653954

送還されるプロセスの映像

  どんな状況なのか説明をしておくと、茨城県にある東日本入国管理センターに収容されていた難民認定申請者A氏が、2019年12月23日、強制送還のために成田空港に連れてこられ、空港内の入管施設で午後いっぱい、搭乗時刻まで待たされていたときのできごとです。
 動画の最後に、A氏は飛行機に乗せられましたが、「帰らない」「帰れば死ぬ」と訴え続け、機長の判断で飛行機から降ろされて、収容所に戻されました。
 そして、この暴行などについて、国家賠償請求の裁判を起こしました。一審では、訴えの一部が認められましたが、暴行を違法とは判断してくれず、控訴中です。
 
送還停止効があるのに送還されそうになった理由
 今回の入管法改定案では、難民認定申請者を含む「送還忌避者」を抑圧することが主目的となっています。
 難民認定申請をしていればその間は送還が停止される「送還停止効」が、現行法にはありますが、入管法改定によって、2回不認定処分を受けてしまうと、効力を打ち切られ、送還執行ができるようになります。
 では、まだ法律が変わっていないのにA氏はどうして送還されそうになったのでしょうか。
 入管は、難民の認定をしない処分に対する異議申立の棄却決定の通知日と、強制送還の執行の日を、両部門が連絡を取り合って調整して、異議棄却決定を通知し、その場から送還執行を行うというやり方をしたのです。

難民申請者に対する違憲な人権侵害

 これは、送還停止効の脱法行為です。
 東京高等裁判所令和3年9月22日判決は、入管が、難民の認定をしない処分に対する異議申立の棄却決定の通知日を調整し、異議棄却決定を通知し、翌日に送還執行を行ったという一連の行為を、憲法上の裁判を受ける機会を実質的に奪うもので違法と判断しました。
 A氏に対する東京地裁令和4年12月22日判決でも、入管が、難民の認定をしない処分に対する審査請求の棄却決定の告知日を調整し、審査請求棄却決定を通知して即座に送還執行を行った際の、難民審査参与員事務局が通知を送らせた行為が、憲法上の裁判を受ける機会を実質的に奪うもので違法とされています。

入管庁全体による計画的違憲行為

 入管庁(当時は入管局)は、平成27年策定の第五次出入国管理基本計画で、「送還停止効に一定の例外を設けることについて、法制度、・運用両面から更に検討を進めていく」と述べています。令和元年策定の現行の出入国在留管理基本計画でも、同じ記述が引き継がれています。
 「送還停止効に一定の例外を設ける運用」とは、何を意味するかというと、まさに、上記の、難民異議棄却通知と同時に送還執行をしてしまう運用と理解できます。

 このような手法は、2010年代初めころにもいくらか見られた記憶がありますが、2015年以降に「濫用的申請者対策」が声高に言われるようになるに伴い、2017年3月1日には、入管局長名義の「指示」で、従来在留資格を有していたが複数回申請に及んだことで在留資格を失った人たちに対して、このような手法を行う体制を整備する通達が出されています。(PDF:「難民認定制度の濫用・誤用的な再申請者の帰国促進に係る措置の試行について(指示)」 https://drive.google.com/file/d/1wnoBBmZZSsnbGkAlLJvWqRIEu2G6dx2f/view?usp=drive_link

 その通達に基づいて具体的に実施されるたびに、実施報告がされています。(PDF:「難民認定制度のi監原・誤照的な再申請者の帰国促進に係る措霞の結果について(報告)」https://drive.google.com/file/d/1fh5qp7BomTf_3sxN7nlAACxjTWCvPg7u/view?usp=drive_link)報告先は、難民認定室長で、難民認定室が直接の統括をしていたのだろうと推測されます。

 つまり、入管庁が、公にしている行政計画に基づき、入管局長や入管庁長官の指示の下、難民認定室が主導して組織的に、違憲行為、難民認定申請者の人権侵害行為を行ってきたということです。

再発防止策?

 東京高裁判決確定後、上記一連の行為と同様の行為が行われないための通達が発せられましたが、憲法上の権利の侵害という重大性に鑑み、防止措置は真っ先に法制化するべきであろうと思います。しかし、今回の法案にそのような規定はありません。

「送還停止効に例外を設ける法制度」

  出入国在留管理基本計画にある、送還停止効という法制度に「一定の例外を設けることについての運用面の検討」ということ自体が、脱法行為を意図していると思います。
 さらに、「送還停止効に一定の例外を設けることについて、法制度から検討を進めた」結果が、今回の法案と理解できます。
 今回の法案は、2019年ころの収容長期化などへの対応ではなく、もっと以前から、入管庁は、送還停止効を無効化するための方策を検討してきました。
 しかし、行政計画は、法律を誠実に執行するための計画であって、法改正の検討を行政計画に盛り込むことは権限を越えるものではないかという疑問がぬぐえません。
 送還停止効は、小泉政権下の2004年、自公の賛成で成立した法改正で導入されたものです。政権与党すら、入管庁による情報操作に騙されていると思います。